職人気質と医療費

(類似の文書は神奈川新聞に掲載された。)

    職人の技を生かして

 年々に高くなる医療費は読売新聞の少し前の記事により過去最高の29兆8000億円に達したそうです。多くの人は「仕方がないでしょう」と思っているらしいが、「医療消費者」として「買い求めるサービス」である、満足すべからず医療の品質と値段に関して個人的な意見を述べさせていただきたいと思います。

 上記の予算が膨大のものに膨れ上がっている事に関して医師、医療業者や保険会社などが余り興味ないかもしれませんが、その額を払わざるを得ない一般国民一人一人は上昇し続けている医療費が気になる筈です。私は、これは運命でもないし、不可逆の「時代の流れ」でもないと思います。この運命を変えられるのは「職人の技」だと信じています。

 大半の医療行為は「診察」と称されております。この中に含まれている「診」と言う文字は、「医者が、患者と話しをして、すみずみまで細かに病状を診る事である。」、又は「見立ての結果を教える」等の意味があります(漢和字典)。何かが詳しくを調べるためそれなりの時間と手間が必要です。しかし、現在医療現場で常識のように行われている「2分診察」果たして上記の意味で患者を診る事になるでしょう。これほど短時間で良質の診察を施す事がよく言えば大変難しいでしょう。従って、このような「2分診察」は必然的品質の悪い品/サービスです。

 例を上げましょう。以前往診の際患者が「腰痛や坐骨神経痛」を訴えました。しかし、診察で即に腹部にある最低拳大の腫瘍に気付きました。患者に現在の「神経痛」の原因は腰ではなく、腹部にあり、悪性の可能性もある腫瘍だと告げ、検査を薦めました。検査結果は後程思った通りの「癌」を判明しました。

 この患者は、私の往診の一ヶ月前に心臓発作(狭心症)で入院し、腰下肢痛で整形外科でも診てもらったそうです。ここは疑問です。少なくとも二人の医者に診て貰ったにも拘らず、素人が触っても分かる程大きい腹部腫瘍がどうして見落とす事が出来たでしょうか。答えは残念ながら簡単です。心臓発作は胸の病気と腰痛は腰の病気、いずれの場合西洋医学の職人がお腹を診る必要がないと思われたらしい。それでもこの患者の入院治療などに高額の医療費が請求されたはずです。

 類似の例は沢山あげられます。目で見れば、或いは触診や聴診すれば分かる病態に於いて、先ず高額の検査が注文されます。視診、触診、聴診などは(少なくとも私治療院)無料(又は極めて低い料金)で出来るのに検査を注文する行為は明らかに「金儲け作戦」に違いありません。現在の保健医療の大部分が検査に使われると考えると上記の行為/態度は膨大のお金の無駄遣いされることを意味します。年々に高くなり、新たのもの(例えば「介護保険」)が追加される高額の保険料を払わざるを得ない国民にとって決して納得すべき事情ではと私は信じています。その費用が患者を真面目に(職人らしく時間を掛けて)診察する事だけで大幅に削減できる事が一目瞭然となるような気がします。患者の話に耳を傾き、旧式の「診察」を行われていれば、現在検査に使われる金額の無視できないほどの部分が不要になるはずです。

 外国の諸調査によって通常の治療に例えば鍼治療を加える事によって、病態が改善するまでの時間が大幅に短縮され、同時に治療費も節約される事が判明しました。保険会社が一人の患者当たりに支払われる保険金が大幅に減りますので、現在問題とされる「財政不足」が改善される可能性が高い事が小学生でも検討できそうです。

 私も現在既に高い健康保険料を払っているのに、最近更に介護保険料が加算された事が気に入りません。そして現状を改革しなければ、数年後恐らく雪崩のように大きくなる医療費をカバーするため次の「特殊保険料」が考案されるに違いありませんので、一般庶民の負担を更に増すでしょう。  よって、私は鍼灸などの代替医学的、伝統医学的な(医療職人的)アップローチが現代医学の変わりとしてではなく、効率のよいとコストが比較的掛からない国を救う鍵の一つを握っている事を確信しています。